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こだわりはコーヒーだけじゃない!
わざわざ足を運びたい老舗「名曲喫茶ライオン」

濃いめのコーヒー片手に、ゆっくり流れる時間とレトロモダンなムードを楽しむ。そんな喫茶店での一服も、昨今のカフェブームに押され、すっかり得にくくなってしまいました。しかし、老舗と呼ばれる名店はまだまだ健在。なかでも、舌と耳を満足させてくれるとして評判なのが「名曲喫茶ライオン」です。

─ 昭和元年から渋谷を見てきた、名曲の流れる純喫茶

「名曲喫茶ライオン」は1926年(昭和元年)、渋谷は道玄坂にてオープンしました。昭和20年には空襲によって大きなダメージを受けてしまいましたが、エリア随一の速さで再建したそうです。「初代がコーヒーや砂糖を防空壕に貯めていましてね。丸焼けになった店舗も自分の手でデザインし直し、見事ヨーロッパ風に生まれ変わらせました。シャンデリアまで一つ一つ買い付けて。建築の専門家でも、海外経験があるわけでもないのに、すごいものだと感心しますよ」と、教えてくれたのは三代目店主の石原さん。初代の山寺弥之助氏はとてもバイタリティに溢れた方だったようで、お店の外装、インテリアはもちろん、装飾や音響設備、パンフレットに至るまで、自ら考案したとか。入口で出迎えてくれるライオンのレリーフも彼の作品。「えっ、おじさん、自分で彫っていらしたわよって、初代の姪御さんが。あまりに見事なので、私は誰かに注文したものだと思い込んでいました」。柱や窓枠、テーブルセットなど、隅々までこだわったインテリア以上に目を引くのが、店内正面に構える巨大なスピーカーです。「小さな蓄音機から始まり、再建・増築のタイミングで設けました」。

─ アメリカの専門雑誌が取材に来たほどの高級スピーカー

店内に流れる美しいクラシックを奏でるのは、国内メーカーに特別オーダーし、専門のエンジニアたちによって調整された、最上級の大型スピーカー。「6回ほどヨーロッパに行き、本場の音を体験しましたが、やっぱりこの音響に敵うところはありませんでした。しいていうなら、ノルウェーの教会で聞いたパイプオルガンが近かったかもしれません」。実際、深みのある音質はコンサートホール顔負けのレベルで、耳の肥えた方もうっとりすること請け合いです。「2階の最前列が特等席。音に包み込まれるような感覚が味わえると思いますよ。昔は東大の学生さんたちが年中座っていましたわ」。昭和34年には、はるばるアメリカから専門雑誌が取材に。初代が記者にインタビューされている掲載誌を、石原さんは今も大切に保管しています。

素晴らしい音楽をみんなに聴いて欲しいとの思いから、ほとんどの椅子はスピーカーが正面になるよう並んでいます。その姿はまるで映画館のよう。万を超えるであろう、レコードやCDの数も驚きです。「戦後まもなくは、ほとんどのレコードを露天商からコツコツ買い集めるしかなかったと聞いています。何十年も前に数えたとき、すでに約5000枚。年々増やしていますからね、もう大変な数になりますよ」。

─ コーヒーの抽出はイギリスの名店と同じ手法で

大きな鍋でコーヒー粉を煮込み、しばらく寝かせてからもう一度沸かす。2回煮出すライオン独特の抽出法のルーツは、ロンドンにあった喫茶店「ライオン ベーカリー」にあります。「ライオン ベーカリーで初代の従兄弟が修行したんです。そのレシピを受け継いだので、店名の由来にもさせていただきました」。濃厚な香りと強い苦みが特徴のコーヒーは、まさしく昭和の味といった趣で、ホッと一息つけてリフレッシュするのにぴったり。上質なクラシックとのペアリングもたまりません。耳と舌が癒される、大人な時間を過ごせるでしょう。「飛び切りの深煎りなんですよ。馴染みの焙煎屋さんが昔からの付き合いだからと、特別にとても深く煎ってくれて。ほかでは断られるくらいの加減なんです」。そんなこだわりのホットコーヒーですが、お値段はなんと¥550。とても懐に優しい設定です。「1杯で1日過ごす方もいらっしゃいます。みなさん、お時間許す限り居てくださいね」

─ 難しいルールはなし! リラックスして来店を

毎日15時と19時に、定時コンサートが開催されます。それ以外の時間帯も常にオススメの名曲が楽しめますが、リクエストすることだって可能です。「なにかご希望があるなら遠慮なさらず、スタッフに作曲家や曲名を伝えてください。決してかたく過ごす場所ではありませんから」。常にクラシックが流れる喫茶店とはいえ、難しく考える必要はないのです。「大きな声でのおしゃべりや写真撮影はご遠慮いただきますが、パソコンで仕事したり、奥のボックス席で商談したりは大丈夫。無闇に音の邪魔さえしなければ構いませんよ」。

義兄である初代の作ったお店を丁寧に守る石原さん。かつての調度品をあえて使い続け、昭和の風情が失われないよう尽力してくれています。「昔はね、椅子やテーブルはまとめて駒場の職人さんに見てもらっていたんです。でも、廃業なさってしまったので、今は仕方なく自分たちで修理を。スピーカーも息子が部品を秋葉原で調達して動かしているんです。それでも建物自体はまだまだ頑丈。東日本大震災でも目立った被害はありませんでしたから」。

宝塚の女優や多くの作家が訪れ、昭和の初めから渋谷を見守ってきた名曲喫茶ライオン。いつまでもコーヒーと音楽を愛する人たちの憩いの場であって欲しいのですが……。「美味しいコーヒーをリーズナブルに提供し、音楽と一緒に味わってもらいたい。みなさんがくつろげる場所でありたい。これは初代からずっと続く願いです。いずれは私の次男が後を継ぐ予定ですから、引き続きゆっくりできる喫茶店としてご愛顧いただけると幸いです」。

名曲喫茶ライオン

東京都渋谷区道玄坂2-19-13
TEL|03-3461-6858
営業時間|11:00~22:30
定休日|無休

写真/山田裕之
文/金井幸男