
今回は、パンニングのお話です。聞きなれない言葉だと思います。映像の業界用語でカメラを左右または上下に振る事をパンニングまたはパンと言います。映画関係者や古いテレビ
スタッフなどは上下垂直方向に振ることをチィルティングとも呼びますが、最近のTVマンはチィルティングを
パンダウン(下に振ること)逆はパンアップなどと呼び、カメラを振ることを全体にパンと簡単に呼んでいるようです。
もっとも、すでにビデオカメラをお持ちの方やムービー一眼で動画撮影される方は、
難しい用語を知る前からパンをしていると思います。
アマチュアの方に共通することは、やたらとカメラを振ったり、振り回しが多いことです。
家族からパパの撮るビデオは「見にくい」「見てると船酔しそうだ」と言われる原因はカメラの無意識な振り回しにあります。
前回までのLESSONでは、カメラを振るのは高度なテクニックですので、少しだけしか触れていませんでした。
撮影の基本中の基本はカメラを振らない(意外と思われるでしょうが)写真のように固定して撮ることです。
この固定した状態での撮影をフィックス撮影とも言います。パンをするとフィックスの重要性が理解できます。
今回は、パンの使い方の基本をマスターしていただきましょう。

展望台に立ってパノラマの風景撮影をするとき、カメラをゆっくりと振って広大な眺望を撮ります。
高層ビルや高い山など、広さ同様にカメラを振らないと撮れない高いものを撮るときに使います。
上の方に有るモノ(山やビル、看板など)からカメラを振り下ろすと下に人物がいる。また、海に浮かぶ船からカメラを横に水平に振ると岸に人物がいる。など人と人、または人やモノとの位置関係や居場所を説明的に見せるときに使います。
説明用の看板を読ませたい時や日光東照宮のような歴史的価値の高い建造物の細かな装飾などを観察するようにしっかり見せたい時に使います。
では、パン二ングの典型的な例をお見せしましょう。
横へカメラを振り広さや位置関係を見せる時に使うパノラマの例です。
これは、伊豆で、富士山と芦ノ湖が見える展望台からの撮影です。横(右から左)にパンすることで周囲の山並みと中央に富士山(少し雲に隠れてますが)と芦ノ湖があるなど、広さと位置関係を表しています。
やってはいけない注意として覚えて欲しい言葉に「壁塗りパン」「往復パン」という言葉があります。意味は言葉通りで左官屋さんが壁を塗るように左右、上下に連続してカメラを振り回すことです。往復パンはカメラを左右に往復するように振ることで、どちらも後で見ると船酔い状態になりますので絶対にしてはいけません。
パンの時、カメラを振る速さはゆっくりがおすすめです。早いと目が疲れますし、
途中何が写っているか分からないからです。
横にパンをする時は、水平をとるように注意してください。海岸で横にパンしながら水平がだんだんと傾く人を見かけます。地球が傾いていくように不自然に見えますので要注意です。
うまくパンを撮ってもやたらとパンが続くと、やはり見ていて疲れます。パンとパンとの間にはフィックスカット(カメラを固定した状態)を入れると落ち着いて見れる作品になりますので、できるだけパンの連続使用はさけましょう。

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中華街の門から下へカメラを振ると今回の主役のあずささんが正面に向かって歩いてきます。これは人物の居場所、位置関係を表す撮影テクニックです。観光地などで使える手法ですので覚えておいてください。
中華街には多数の中華レストランがあります。その中を歩いている感じを出すためにローアングルで撮りました。店の二階部分にある派手な看板類が人物と一緒に入るように撮る為です。
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中華街には多くの門があります。街を歩いていて違う門を発見したあずささん、思わず指を指し門に注目。指を指す方向の門へカメラはやや上に振るようなパンで撮影しました。 このように何かを発見した仕草(顔の表情)と見ている被写体を素早く関連付けるのにもパンが有効です。
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これは、最初の中華街の入口のカットと同じ手法です。ポイントは後ろ姿(入っていく)をパンダウンした時、タイミング良く撮ることです。少し難しいので練習してみてください。
注意のところでもお話ししましたように、パンの連続は避けた方が良いです。ここでは寺に入る姿の次のカットですから、寺の中として見る人に理解されます。短いカットで、状況を説明するならば、門を入る+お参りのアップの二つのカットだけでも「どこにいるのか、何をしているのか」が十分に伝わります。
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横浜山の手にある教会の前を少し歩く姿をカメラは追うよう(フォロー撮影と言います)に撮りながら、教会の入り口でたちどまり、教会を見上げる。カメラはその見あげる動きに合わせるようにカメラを上にパン(アップ)をして教会の上部と高さを表現しました。
古風なデザインの電話ボックスと花を入れ、下からあおるように撮りました。花は季節感を出すためと、パンの連続を避けるためです。花の向こうに見える電話ボックスは次のカットと関係する意味も含んで撮っています。
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観光用に造られたのでしょう、古風なデザインの電話ボックスを発見しました。全体を撮ると細部がどうなっているか分かりにくいので、上から下へゆっくりパンで見せています。
電話ボックスが、道路際にあるなど、どこにあるのか分かるくらいの広い画面で、電話ボックスと周囲をフィックスで撮りました。その画面の中で電話ボックスに入って行くあずささんを撮っています。
電話をしている姿をアップで撮ってつなぎました。つまり、電話ボックス4カットで、花の季節感(いつ)次の広い画面で(どこで)電話をしているカットで(誰が何をしている)の説明が全て入っていることになります。
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横浜が一望できる観光スポットとして、港の見える丘公園があります。そこから見た港の大パノラマを、ゆっくりとしたパンで見せています。典型的なパンの使い方です。
長いパンですので撮影中に水平が傾いたり、パンのスピードが不安定だったりしないように注意しながら撮ることが大切です。
ラストカットとして、先に見せた横浜全景のパノラマを見ている後ろ姿のカットをラストにしました。パノラマとこのカットを逆にしても説明としては、どこで(展望台で)誰が何をしている(横浜全景を見ている)の説明はできますが、最後に動いているカットは落ち着かないのでこの後姿にしました。

- テレビ番組の制作を中心に大手メーカーのプロモーションビデオなど幅広く映像制作を手がける。長年培った撮影ノウハウを独自の撮影テクニックとして確立。そのテクニックは簡単で分かりやすいと支持され、テレビ番組への出演や雑誌への連載など多数のメディアで活躍中。
- 指導・撮影 : 齋藤行成